要介護者の中には、何か物が無くなった時に「誰かが持っていったのかもしれない」「誰かが家に入ったのかもしれない」と、被害的に物事を考えてしまう方がいます。
このような“物盗られ妄想”は初期認知症の要介護者によく見られるのですが、否定的に対応すると、より一層エスカレートして妄想が強くなることがあります。
「物を盗んだ」と疑われるのは家族やヘルパーなど身近な人であったり、個人的に気に入らない人であったり様々です。
今回は、物盗られ妄想がある要介護者への対応について紹介いたします。
まず要介護者は、物が無くなると、あったはずの場所を探します。ここまでは普通のことなのですが、一通り探して見つからないと、その事ばかりを考えて他人を疑いはじめます。
無くなったものがお金だった時は大変です。「空き巣に入られた!」と焦って勘違いをして、警察に電話をかけてしまう要介護者もいます。本当に空き巣が入ってきた可能性もあるので、一概に悪いとも言えないのですが、度重なる誤通報は迷惑になりますし、心配してくれた人を巻き込んでしまいます。
1人暮らしの要介護者は、そのような物盗られ妄想に囚われても、家族に相談することができず、無くなった物が気になってずっと不安な思いを抱えることになります。ただ、不安でどうしようもなくなれば、ケアマネジャーに相談を持ちかけてくれるはずです。
そんな時は、ゆっくり時間をとって要介護者の話を聞いてあげましょう。まずは本人が困っていることに同調してあげることで、不安が和らぎ、気分を落ちつけてくれる場合があります。
妄想に囚われ、繰り返し同じ言動をとることもありますが、その都度要介護者の訴えを聞いてあげる事が重要です。要介護者さんの主張を一方的に否定したり、怒ったりすることは禁物です。一層妄想が強くなり、攻撃的で精神的に不安定になってしまうおそれがあります。
何度も同じ事を言われると、ついイライラしてしまいそうになりますが、根気よく話を聞いたり、うまく話題を変えて乗りきりましょう。
もし物が無くなり、要介護者からいつも特定の人が疑われる場合は、人を代えてください。
例として、疑われるのがいつも同じヘルパーなら、別のヘルパーと交代しましょう。私たちがどう弁解しても、要介護者本人の思い込みは消えません。いつも疑われてしまうヘルパーも辛いと思います。
こちら側が「物を盗った」と認めているようで嫌な思いもあるかもしれませんが、1番辛いのは被害妄想に囚われてしまう要介護者です。彼らの目線に立って、『辛さを理解してあげよう』という心を持ちましょう。
しかし、疑われる人が要介護者の家族である場合は、難しいところです。接点が多い主介護者(娘、息子など)が疑われるケースが多く、悲しい思いをされています。このような場合は主介護者の相談もよく聞いて、介護負担の軽減を検討してみましょう。
あまりにも要介護者の物盗られ妄想がひどく、夜も眠れないほど不安になっている場合は、専門医の受診をされたほうが良いでしょう。処方された薬で、物盗られ妄想が落ち着く要介護者さんもいらっしゃいます。
よく探し物をされる要介護者のために、物を整理整頓しやすいような工夫をしてあげることも有効です。
例えばテーブルの上など目につきやすい身近な所に、引き出し付きのボックスを用意し、それぞれにネームをつけて「家のカギ」と書かれた引き出しには必ず「家のカギ」をしまっておけるような工夫です。
ある物を常に同じ場所に整頓できれば、そもそも物を見失うことが減り、物盗られ妄想が改善されるケースがあります。
保険証や財布(お金)など、他人が干渉することのできない貴重品の整頓に関しては、要介護者の家族に協力してもらいましょう。 お金をどれだけ使ったかうまく把握することができない要介護者の場合、収支はできる限り家族に管理していただく方がいいでしょう。
物盗られ妄想は、何か不安や心配事が多いと頻発します。日頃から要介護者の話を聞いて、何か訴えがあれば早期に対応できるようにしましょう。
ケアマネジャー1人での支援では困難なことも多いですが、要介護者の主治医に相談したり、サービス事業所や地域包括支援センター、福祉課などと協力して、統一されたケアを行いましょう。
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