介護コミュニケーションの基本は「傾聴」「受容」「共感」です。
ここでは、被介護者の尊厳を守りながらコミュニケーションをとるにはどのようにすればよいか少し紹介します。
「傾聴」「受容」「共感」
これは、入居者と会話をする上でとても大切な事ですが、その為にもいくつか心に留めておいて欲しいことがあります。
・敬語を使って会話をする
・目線や顔の高さを合わせる
・話す速度や、声の高さ、大きさを各入居者にあわせ調整する
・パーソナルスペースに留意する
・表情や身体の動きも使って会話をする
・否定ありきでの会話をしない
こう聞くとなんだか難しく聞こえるかもしれませんが、これらは特別なスキルではありません。目上の親しい人との会話を思い浮かべてみると、普段から自然に行っている部分もあるのではないでしょうか。
「敬語だと親しみやすさが出ない」「他人行儀」という意見もあるでしょう。しかし、敬語であっても口調や言い回しで十分柔らかい物言いになりますし、入居者の尊厳という意味でも、やはり適切なのは敬語だと考えます。ただし、敬語を使っても口調が上から目線にならないよう注意しましょう。相手は入居者、その施設を利用してくださっている「お客様」です。
お天気の話や、季節の変化や気候、旬の食材は何か、それを使ってどんな料理が作れるか、または、相撲や野球などのスポーツや時事にまつわる話等、当たり障りのない世間話でも会話のきっかけというのは意外と多いものです。室内で一日を終えることの多い入居者にとって、季節の移り変わりを肌で感じる機会は少ないので、通勤途中にこんな花が咲いていた、セミが鳴いていた、霜が降りていた、そんな季節を感じることのできる会話から始めてみるのも良いでしょう。
出身地を聞くことが出来たら、その土地のお祭りや観光名所などの話に展開させていくことも出来ますし、訪れたことのある土地であればここが素敵でした、と長所をお伝えするのも良いですね。住み慣れた土地を褒められて嫌な気分になる人は少ないものです。なにか内容のある特別な会話をしようと身構えず、肩の力を抜いて挨拶や他愛もない話から会話を始めてみるのがおすすめです。
明るい会話には明るい声で、深刻な会話には落ち着いた声で、相手の表情や感情を汲み取りその時々に合わせた距離感、声の大小、トーン、言葉は否定的なものではなく肯定的なものを選び、相手の意思を尊重することを心掛けましょう。
コミュニケーションだからと、なにも入居者ばかりに話題を持ち掛ける必要はありません。普段の会話でも一方的に相手の話を引き出そうとする機会は少ないはずです。時折は、自身の話を持ち掛けてみることも有効な手段となり、相手は親しみを感じてくれるものです。そうやってお互いの事を伝えあう事で「入居者」と「介護者」という枠を超えたコミュニケーションが図れるのではないでしょうか。
入居者との会話の中には様々な情報が含まれています。
例えば補聴器を使用している入居者の場合、以前より聞き取りにくくなっている様子なら機器や耳に何か原因があるかもしれません。「聞こえていない」で終わらせず、なぜ聞こえが悪くなったのかという「気付き」も日々のコミュニケーションから得られる大切な情報です。
いつもより元気がない、声に張りがない等、何か普段と違うところはありませんか?
口調や呂律の明瞭さ、表情はどうですか?些細な気付きが疾患の早期発見に繋がることも多々ありますので、ただ会話をするだけでなく、そこから得られる情報に常にアンテナを立てておきましょう。
高齢者、とくに認知症を患っている被介護者の場合、何を話せばいいのだろう、話が伝わるだろうか、うまく話せるだろうかと躊躇するかもしれません。
認知症だから何を言ってもわからないわけではありません。症状の出方には個人差があります。名前は覚えていなくても顔は覚えている、何をされたかわからないけどこの人は好き、又は嫌だ、そういう記憶力のある入居者もいらっしゃいます。
馬鹿にした物言いをされれば、当然不機嫌になります。およそ認知症であってもそういう感情はきちんと持っているということを覚えておいてください。
例えば、既に服薬済みという状況で、「お薬を飲んでいない、頭が痛い」と訴えてくる入居者へ「さっき飲んだばかりです」と事実のみをお伝えする、これはどう感じますか?もしそれを伝えて安心する入居者であれば「大丈夫です、もう少ししたら効いてきます。」というような安心感を得られる一言を添えてみるのはどうでしょう。飲んでいないという入居者の中での事実を否定せず、「頭痛、辛いですね、少し横になりますか?」と頭が痛いことへ共感し、その入居者の「辛い」という今の感情に寄り添った会話を心掛けたいものです。
認知症によって短期記憶を失いやすい入居者に対しては、過去に遡った会話になるよう話の流れをそれとなく作ってみると、現在の出来事を覚えていなくても、昔の話となると途端に話が弾みます。
実はお花を活けるのが趣味だった。歌を歌うのが好きだった。編み物が得意だった。こういった会話を覚えておくと次のケアに活かせるヒントになります。
会話にマニュアルも正解もありません。こういう会話をしなければならないという決まりはないのです。被介護者が一個人であると同時に、介護者自身も一個人、個性のある人間同士が会話をすればその数だけ会話も違ってきますよね。最初はうまく会話をつなげず途切れ途切れになってしまうかもしれませんが、繰り返し会話を持ち掛けることでその人に合ったご自身なりの会話のテンションというのが自然と見つかります。
心構えとして一番大切なのは、入居者を個人として認識し、尊敬し思い遣りを持つ心です。認知症、難聴等の理由からコミュニケーションは取れないと決め付けず、まずはチャレンジしてみようという気持ちが大切です。
カテゴリ
アーカイブ