病院における看護師の患者に対する看護過程と介護施設における看護師の利用者に対する看護過程は少し異なります。
異なる点としては主に病院では「医療」の考えを元にして、治療することを目的とした看護業務を看護助手や他の医療職と協力して行います。
一方で、介護施設では「福祉」の考えを元にして、リハビリやバイタルチェック、日々の健康管理などを看護師は介護士や他の専門職と協力して行うという点です。
介護保険制度が始まる前は、介護は各家庭で行われていたため、依然として介護は誰でも行えることという考えを持っておられる方もおられますが、介護士も専門的な知識、技術を必要とする専門職です。
確かに、通所介護施設や入所介護施設では資格が無くても仕事を始められます。
しかし、働いていく中で必要な技術や知識を習得し、介護職員初任者研修などの資格を取得される方が多くおられます。
また、介護福祉士は国家資格であり、介護の専門職として、介護現場では活躍が大いに期待されています。
介護施設では、看護師より介護士の方が多くの人数が配置されており、また日々の利用者の体調の変化を見ています。
看護師はそれらの報告書、情報から医療的な見地の元判断を下すので、介護士、看護師ともに無くてはならない存在です。看護師、介護士はお互いに助け合い、協力していく必要があります。
実際にはそれぞれに看護、介護過程を持つそれぞれの専門職がどのように他の専門職の支援を組み込んでいくのかということは時に溝を生じさせる難しい点ですが、どのように尊重し合えるかについて考えてみたいと思います。
医療的な専門性で見れば、医療の専門知識、技術を有する看護師は介護施設にとって貴重な存在です。
多くの看護師は介護施設で働く前に病院などでの勤務を経験されています。その中で多くの患者の症例を経験しているので、介護施設で働く上でもその知識、経験を武器に活躍が期待されます。
しかし、日々の業務の中で看護師にしかできない医療行為に専念できる環境を整えることは、介護士の協力が無ければできません。
例えば、日々の介護記録についてはどうでしょうか。利用者のバイタルや症状からいち早く理解できる看護師と日々の生活介護をはじめ、一日の多くをともに過ごす介護士との視点は異なります。
介護士は日々の介護業務を通して、利用者の食事の量、水分摂取量、便の状態、入浴時の褥瘡などのチェック、普段との様子の違いなど多くのことに気付き記録を残しています。
どちらも家族や介護対象者に関わる全ての人にとっては重要な情報です。
看護師だけでは、先に述べたような日々の利用者の状態を全て把握できません。そのため、介護士と連携を撮り、情報交換を行いながら、ケアを行うことで利用者に対して的確な看護が行なえます。
日々の業務に追われてしまい、すべての仕事に関われないときは、看護師しかできない褥瘡の処置や胃ろうの処置などの医療行為を伴う仕事を優先的に行なうことになるでしょう。この時も介護士の協力が必要な場合が多いです。
介護士も看護師しか行う事ができない業務を理解しています。お互いの専門性への理解や尊重の上でそのような役割分担ができます。
そのような日々の中で、まだ必要な福祉的視点を持つ介護士も、看護師の仕事内容を把握することにより医療的な方面からの視点を身につけることができます。もちろん介護士からの日々の状況報告は看護師にとっては重要な情報になります。
介護施設の中で看護師にはバイタルチェックなどの健康の管理や胃ろうの処置などの医療行為を伴う看護師としての仕事以外に、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師と並んで、施設内でリハビリなどの機能訓練に携わる機能訓練指導員として勤務するといった働き方があります。
介護老人保健施設やデイケアのように他の機能訓練専門の職員がいる場合は異なりますが、一般のデイサービスや特別養護老人ホームのように看護師が機能訓練を行う場合が多いところでは、欠かせない存在となります。機能訓練の計画や評価は看護師が中心になって行う事が多いためです。
実際に歩行訓練をする場合だけでなく、日常生活動作を活用して機能訓練を行う場合には、関節の状態や腰痛、脱臼や骨粗鬆症などの危険を他の介護士が把握した上で、更衣等の際に機能訓練も意識して関われるように誘導していくことができます。
一日の多くを利用者と関わる介護士に補助を依頼しながら機能訓練を進めていきます。もちろんこの時看護師1人で行うばかりではなく、介護主任、担当介護士等の協力を受けながら行っていきます。
介護士の協力を受けるばかりではなく、医療従事者として介護士に医療的知識を周知させていくことも大切です。介護士にとって身近で医療的な知識が得られるという事は大きなメリットとなっています。
介護施設における介護士と看護師の連携には、2つのパターンがあります。
1つ目はそれぞれの専門分野の仕事を優先できるように補い合う連携で、2つ目は専門的な知識や経験を持ち寄って協力しながら1つの仕事をするという連携です。
専門性が異なるゆえに時に物事の行い方や優先順位が異なり、理解し合うことが難しいことがあります。
そのような違いが生じるのは専門性の違いによるものだと理解しておくことで、さまざまな場面で協力して対処していくことができるでしょう。
カテゴリ
アーカイブ